トメアスは、アマゾン河の河口の都市パラ州の州都ベレンより南へ約230Km離れたところにあります。ブラジル北部の日本人入植地としては最も歴史が古く、多くの日系人が住む町として知られており、現在でも300戸余りの日系人家族が暮らしています。
トメアスの日本人入植地としての歴史は1929年の9月22日より始まります。
1929年7月24日、モンテビデオ丸が日本人移民42家族189人(単身者9人を含む)を乗せて神戸港を出港し、約2カ月の航海を経てトメアスに到着しました。
実はアマゾンには1907年頃より、ペルーからアンデス山脈を越えてやってきたペルー移民の日本人や、イギリスから大西洋横断の船でマナウスやベレンで働いていた日本人、そしてブラジル柔術の祖となる武道家「コンデ・コマ」(前田光世)もベレンに定住していたことも知られています。しかし、日本政府が正規に送り出した移民ではなかったため、公式には1929年が日本人アマゾン入植の年とされています。
モンテビデオ丸(画像提供:商船三井)
トメアスに入植した移民たちは、アマゾン開拓で成功し「錦を上げて」日本に帰国することを目的としていましたが、文明社会から隔絶された厳しい環境下での植民地事業は困難を極めました。
彼らの前には手つかずの原生林が立ちはだかり、まず伐採と開墾から始めなくてはなりませんでした。また熱帯での農業の知識が乏しかったために、当初の換金作物の主体とされていたカカオの栽培は思うように成果が上がらず、生活の糧を得るために野菜や陸稲の生産も始めます。ですがアマゾン地方のブラジル人はあまり野菜を食べる習慣がなく、野菜食を教えることから取組んだと言われています。
また、過酷な労働と厳しい気候条件に加え、熱帯の風土病である悪性マラリアが発生すると犠牲者が相次ぎ、町の墓地には日に日に墓標が増え、志し半ばで見切りをつけた退耕者も後を絶ちませんでした。アマゾンは「緑の地獄」とさえ言われました。
また、今日ではベレンからトメアスへ車で4時間ほどの道のりですが、当時唯一の交通手段が川船のみであったために、トメアスは「陸の孤島」とも言われていました。文明から閉ざされた疎外感もその言葉に込められていたのでしょう。
トメアスの歴史を語るにはコショウ栽培による栄枯盛衰を欠かすことはできません。
1933年にシンガポールより持ち込まれた僅か2本の苗から始まり、生産量は1953年には630tと増大します。当時「黒いダイヤ」とも呼ばれたコショウはトメアスに莫大な富をもたらし、町にはコショウの富で建てられた豪邸(コショウ御殿)が建ち、病院や学校が建てられ、町の繁栄に繋がりました。
しかしコショウは病害によって壊滅的な被害を受け、深刻な病害と市場価格の変動のリスクを避けるために、CAMTA(トメアス総合農業協同組合)により取扱い作物の多角化としてコショウ以外の基幹作物の一つとしてカカオが提案されました。単一栽培に頼っていた反省から、ひとつの作物で失敗しても他の作物で補えるよう、農地に複数種の樹木や果樹を混植する農法が築かれていったのです。
これが、森林再生につながる持続可能な農業として世界中で注目され、地球温暖化の解決策として期待されている「アグロフォレストリー」です。
そして今日では、アグロフォレストリーで栽培されたアマゾンフルーツが、日本をはじめ諸外国に輸出されています。現在私たちがアマゾンフルーツを食べることができるのは、トメアスの日系生産者の努力や創意工夫なくしては実現されなかったかもしれません。まさに、アマゾンフルーツの商業化はトメアス日系入植者の功績の一つなのです。
そしてこれからは、フルーツやコショウ以外の作物の多角化によって更なる発展が期待されます。
(画像提供:CAMTA)
現在トメアスは「アグロフォレストリーの郷」として注目され、実践農家はアグロフォレストリーを広げようとトメアス周辺のブラジル人農家や、パラ州外、そしてブラジル国外にも足を延ばし普及活動を盛んに行っています。
アマゾンでは森林を伐採して農地開拓し、土地が生産性を失うと別の土地を切り開く・・・といった農業が行われ、次々に森林が減少しています。これに対しアグロフォレストリーは、同じ土地で永続的に農業を営むことができるため、アグロフォレストリーの輪が広がるとその様な負のサイクルが食い止められます。また、大規模農業に比べ小規模でも収益性が良いことから、小農家や零細農家でも取組み易く、現金収入の手段を得た農家の増加によって地域の発展にもつながります。アグロフォレストリーは、環境面への貢献に留まらず、貧困対策としても期待されているのです。
フルッタフルッタは、アマゾンフルーツを日本で販売し市場を拡大することでトメアスとCAMTAがより発展することを応援し、また多様性のある消費を促すことでアグロフォレストリーの多様性を維持し森林再生の促進をしようと日々活動を続けています。
CAMTA生産者の小長野道則さんがCAMTAを代表し「地域発展貢献賞(ブラジル国家表彰)」の最優秀賞を受賞。2010年12月1日にルラ大統領(当時)から表彰されました。アマゾンの所得の低い人々にボランティアでアグロフォレストリーを教え、生活を改善し地域の保安や環境保全にも貢献したことが評価されました。